播州の風土が育んだ「地産」の先がけ
では、なぜ播州で、とりわけたつの市、宍粟市、姫路市などの揖保川水系で素麺づくりが盛んになったのか? その要因として挙げられるのが、この地域が上質の小麦や赤穂の塩、鉄分の少ない揖保川の伏流水など、素麺づくりに欠かせない質の高い素材に恵まれていたということである。揖保川から引いた用水路に水車が架けられ、水車製粉が盛んであったことも大きな要因となった。
加えて大きかったのが瀬戸内海沿岸特有の気候で、特に寒気が厳しく雨が少ない冬場の気候は素麺を乾燥させる「門干し」作業に向いており、勤勉な播州人の労働力も手伝って農閑期の農家の副業として盛んになったのである。
現在でも揖保乃糸(上級)は10月から翌年4月の限られた時期につくられており、「三神」「特級」「縒つむぎ」「上撰」などその等級によっては12月から翌年2月、あるいは3月までのごく限定された期間につくられている。
また、今でこそ流通の要は道路であり自動車だが、モータリゼーションが普及するまでは舟が大きな輸送手段であり、素材の1つとして欠かせない赤穂の塩の搬入や製品になった素麺の搬出に揖保川水系の舟運が利用できたことも忘れてはならない。
「地産地消」「ご当地グルメ」という言葉がささやかれるようになって久しいが、素麺は
同じく龍野を中心に長い歴史を持つ淡口醤油とともに、播州の風土が育んだ「地産」の先がけといってよい。
さらに近年は「地産」の観点から、素材に播州産の小麦を使った「手延べ素麺 揖保乃糸 播州小麦」の製造にも力が注がれている。この「播州小麦」は、播州地方の小麦農家が丹精込めて育てた、粘りが持ち味の「ふくほのか」と、弾力性のある「ゆめちから」を使用しており、伝統の技で丹念に磨きこまれたもちもち≠ニした食感と播州小麦独特の風味が、「地産」を礎とした揖保乃糸の本来の味を彷彿させると好評を呼んでいる。
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