2.蓄養したサバを生きたまま出荷
現在「ぼうぜ鯖」を手がけているのは、一栄丸水産、清広水産、磯丸水産、大漁丸水産の4業者で、ぼうぜ鯖を共通ブランドにしながらも、業者によってはその上に自社ブランドを付けて市場に送り込んでいる。
そこで今回の『夢おこし』では、そのうちの1つで、ぼうぜ鯖を「ひめさば」の自社ブランドで出荷している大漁丸水産を取材することにした。
小林春光社長によると、同社では巻き網(巾着網)漁で漁獲したサバを生きたまま持ち帰り、一辺8mもしくは11m、深さ14〜15mの八角形をした自社の生け簀に放ち、冷凍したイカナゴなどの生餌を与えながら数ヶ月間畜養。生育状態を見ながら市場に出荷しているという。
漁獲したときのサバは体長40cmクラス。これが蓄養後は50〜60cm、重さは800gぐらいになり、魚肌をトルコ石のような鮮やかなブルーに染めたサバが、生け簀の中で水面を盛り上げるように回遊する姿はまさに壮観で、味の方もマグロのトロのような脂が全身に乗り、こたえられない旨さになるという。
「サバの生き腐れ」という言葉があるように、サバは肌が弱く、それがもとで病気になりやすい魚である。それだけに蓄養にはリスクも大きいが、大漁丸水産では毎日船で生け簀に出かけては水温やエサの食い具合を調べ、適切な対処を施している。
それだけでなく、小林さんたちは直接手でサバに触れないようにしているそうで、網ですくうときも真綿で赤ちゃんをくるむように細心の注意を払っている。
さらにリスクが高くなるのが出荷のとき。大漁丸水産ではサバを生き〆にして出荷するのではなく、船にしつらえた水槽の中にサバを入れ、生きたまま各地の市場に運んでいる。輸送中にサバが死んでしまうこともあり、生け〆にして出荷する方がリスクが小さいし、輸送コストも低減できるのだが、「サバは鮮度が一番。生きたまま出荷するから焼いても炊いても旨い本物の味を楽しんでもらえる。うちの『ひめさば』が他のサバと違うと言ってもらえるのも、生きたままの状態で出荷しているからやと思います」と小林さんは話す。
とはいえ輸送コストの問題は看過できるものではない。大漁丸水産ではひめさばを関西一円、遠くは名古屋あたりにまで船で運んでいるが、当然ながら消費地が近い方が輸送コストは低くなる。
「そやからホンマは姫路や播州地方の小売店や料理店に持っていきたいんやけど、我々漁師も忙しいから細かい動きはできへんし、小口の注文にはなかなか対応できへん。それに“生きたまま”いうんがウチのモットーやから相手先も生け簀を置いている店やないとアカン。地産地消という点からも数さえまとまれば姫路を中心にやりたいんやけどねえ」と、小林社長は残念そうに話す。
[つづく] |